お腹の中にいるとき、親子の体と魂はつながっているといいます。子どもは胎内で、祖先の穢れ、遠い原始の祖先たちの畏れと出遭い、そんな知らず知らずに受け継いできている穢れを祓い清めるという願いも、初節句には込められているのでしょう。
このように、節句というのは魂の健やかな成長も促します。健康や見た目のことだけではないのです。ですからひな祭りでも、女の子の「魂」や「情緒」と呼ばれるものの発育が促されるのです。
古来日本では、懐胎(妊娠)をはじまりに、いろいろな成長の通過儀礼が行われてきました。とくに人の誕生から一年目は魂の成長にとって大切な時期なので、儀礼も厳格に行われます。
七つ前は”神の子”といわれるのは、まだ魂が未熟で変化しやすいというのを意味するのかもしれません。
今はお母さんのお腹から出てきたら「誕生した」と言いますが、以前の日本では胎内にいる時点で命を授かった、つまり生まれたと考えました。そのため赤ちゃんの受胎があると、5ヶ月目の戌の日を選んでお腹に腹帯を巻いてお祝いしました。「帯祝い」と呼ばれるものです。
成長の通過儀礼は誕生(胎内)からはじまり、幼児期を経て、男女に分かれて成人するまで行われます。
昔は男子は5歳から9歳までの間に、女子は7歳の11月の吉日に、幼児期が終わる帯解きの祝いをしました。そこからは幼児としての扱いは終わります。難しい知識を正しく吸収でき、反応できる「社会人」としての仲間入り(氏子入り)の人格が、もうできあがったと見なされるのです。
儀礼のたびに、子どもは自分が少しずつ大人になっていくことを自覚し、やがて成人の式が済むまでには、肉体も生霊も完成されて一人の大人となります。
今のような”キレる子”というのは考えられず、10歳前後でも情緒も安定した人間として扱われました。
お雛さまの人形の中にも、心の成長段階が表現されています。成長を促す童子の顔・格好をした五人囃子や、若手(泣)・中堅(怒)・老人(笑)の3人が並ぶ仕丁。
これらの人形の意味は、大人になってやっと実感できるもの多いかもしれません。ですが、ものを大切にして毎年きちんと並べながら、お雛様に込められた願いを少しずつ教えてあげてください。そういった一つ一つが、お子様の情緒を育ててくれることと思います。